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「愛着障害」と「愛着スタイル」は何が違うのか

恋愛の悩みと愛着スタイル
この記事を読む前に

好きな人とうまくいかない。なぜ自分はこんなに不安になるのだろう。相手がなぜそういう行動をとるのか理解できない——そんな恋愛の悩みを抱えて調べていると、「愛着スタイル」や「愛着障害」という言葉に行き着くことがあります。

でも、この2つの言葉はしばしば混同されています。「彼は(私は)愛着障害なのかな」「彼の(私の)愛着スタイルって?」と考えてしまうのは自然なことですが、そもそもこの2つは異なる概念であり、異なる歴史的背景から生まれました。

この違いを整理することは、自分自身と相手を、より正確に理解するための第一歩になります。

このコラムでは、ボウルビィから始まった愛着理論の流れ、メアリー・エインズワースやメアリー・メインによる研究、成人の愛着スタイル研究、そして日本で広がった「愛着障害」という言葉の使われ方をたどりながら、この混乱がなぜ起きたのかを整理します。


ジョン・ボウルビィ:愛着理論の始まり

ボウルビィをイメージした画像

すべての始まりは、1950年代のイギリスの精神科医・児童心理学者ジョン・ボウルビィです。

第二次世界大戦後、親と離別した子どもたちを研究する中で、彼は発見しました。赤ちゃんは生存のために、主な養育者との絆を求める仕組みを持っているということです。この絆を「愛着(attachment)」と名付けた彼の理論は、心理学を大きく変えました。

愛着理論は、まず「養育者と子ども」の関係を理解する研究から始まった。このことは重要なポイントになります。


メアリー・エインズワース:愛着パターンの発見

ボウルビィの理論を発展させたのが、アメリカの発達心理学者メアリー・エインズワースです。

1960年代、彼女は「ストレンジ・シチュエーション・テスト」(赤ちゃんと母親の分離・再会を観察する実験)を開発し、重要な発見をしました。愛着には複数のパターンが存在するということです。

これが「安定型」「不安型」「回避型」という3つのパターン分類につながっていきます。重要な点は、これらは単なる性格分類ではなく、乳幼児期の養育環境の中で生じた『適応的な反応パターン』だということ。つまり、その時々の環境に対して、子どもなりに生き延びるための反応をしていたということです。


メアリー・メイン:無秩序型と成人愛着研究への流れ

1980年代、もう一人の重要な研究者が登場します。メアリー・メインです。

メインは共同研究者たちとともに、ストレンジ・シチュエーションで説明しきれない子どもの反応に注目し、無秩序型/無方向型という重要な視点を加えました。これは、養育者に近づきたい気持ちと、養育者を怖いと感じる反応が同時に起きるような、矛盾した愛着行動として理解されます。

また、メインはAAI(成人愛着面接法)の開発にも関わり、子どもの頃の愛着経験が、大人になってどのように語られ、整理されているのかを研究しました。ここから、愛着理論は「乳幼児と養育者」の研究だけでなく、成人の対人関係を理解する研究へと広がっていきます。

  1. 「恐れ・回避型」との関係――メインが整理した「無秩序型」は、そのまま大人の恋愛分類と同じものではありません。ただし、近づきたいのに怖い、求めたいのに逃げたいという矛盾した反応を理解する上で、子どもの無秩序型は、成人の「恐れ・回避型」を理解するための重要な基盤の一つになります。
  2. その後、成人の恋愛関係における愛着研究が進み、「親密さを求めたいのに、同時に恐怖や不信を感じる」というパートナーシップの反応が、「恐れ・回避型」として整理されるようになりました。

ここまでの研究は、「人がどのように安心を求め、どのように関係性の中で反応していくのか」を理解するための土台になりました。


岡田尊司氏:「愛着障害」という言葉を広く伝えた存在

岡田尊司氏をイメージした画像

日本では、精神科医・児童精神医学の専門家である岡田尊司氏の著作を通じて、「愛着障害」という言葉が広く知られるようになりました。

岡田氏は、ボウルビィから始まる愛着理論を、臨床的な視点から一般の人にも理解しやすい形で紹介した一人です。著書『愛着障害』『発達障害と愛着障害』などは、愛着理論が日本で広く認知されるきっかけの一つになりました。

一方で、一般向けに広く伝わったことで、「愛着障害」という言葉が、医学的な診断名だけでなく、対人関係や恋愛での苦しさを説明する言葉として使われる場面も増えました。

※医学的な診断名としての「反応性愛着障害(RAD)」は、主に乳幼児期・幼少期の著しい養育環境の問題と関連して説明されるもので、大人の恋愛の悩みをそのまま指す言葉ではありません。

  1. 一般書や臨床的な説明の中で使われる「愛着障害」は、必ずしも診断名そのものではなく、愛着の問題によって生じる生きづらさや対人関係の困難を、広く指している場合があります。
  2. 岡田氏の説明では、愛着の問題がその人の生きづらさや対人関係の困難につながる時、「障害」という視点から理解されることがあります。つまり、本来は環境への適応として生じた反応が、後の人間関係の中で苦しさを生むことがある、という見方です。

つまり、「愛着障害」という言葉には、医学的な診断名としての使い方と、広い意味での「愛着の困難」としての使い方がある。この理解が、後の混乱を避けるために非常に大切です。


成人の「愛着スタイル」と4分類モデル

一方、成人の恋愛関係に愛着理論を応用する研究は、1980年代後半から進み、その後、キム・バーソロミューとレナード・ホロヴィッツによる、4分類モデルなどを通じて、現在よく知られる「安定型・不安型・回避型・恐れ・回避型」という理解につながっていきました。

成人愛着研究をイメージした画像

※成人愛着研究では、愛着スタイルを「自己への見方」と「他者への見方」の組み合わせとして整理する4分類モデルがあります。ここでは、恋愛の場面で理解しやすいように、「自分への安心感」と「相手への信頼感」という言葉で表しています。

その後、一般向けの心理学や恋愛相談の領域でも「愛着スタイル」という言葉が広がり、大人の恋愛関係における反応傾向として使われるようになりました。つまり、「あなたはどのスタイル?」という自己理解やパートナー理解のツールとして機能するようになったのです。

4つの愛着スタイル

  • 安定型:相手との親密さを心地よく感じ、自分も相手も信頼できるスタイル
  • 不安型:相手との親密さを強く求める一方で、関係が不安定に感じるスタイル
  • 回避型:親密さを避ける傾向があり、相手よりも独立を重視するスタイル
  • 恐れ・回避型:親密さを求めながらも、それを恐れ、同時に距離を置きたいという相反した状態

このように、子どもの愛着研究で見出された「パターン」は、成人の恋愛関係を理解するために応用され、より日常的な言葉として「愛着スタイル」と呼ばれるようになっていきました。


愛着障害と愛着スタイル:本来の違い

ここまで歴史をたどると、違いが明確に見えてきます。

愛着障害と愛着スタイルの本来の違いを整理した比較表
  1. 「愛着スタイル」は、親密な関係の中で現れやすい「反応傾向」です。安定型・不安型・回避型・恐れ・回避型という4つのパターンは、それぞれ過去の経験や関係性の中で身についた、環境への「適応的な反応」として理解できます。
  2. 「愛着障害」は、医学的な診断名として使われる場合もあれば、愛着の問題によって生じる生きづらさや対人関係の困難を広く指す場合もあります。つまり、愛着に関わる反応が、現在の生活や関係性に大きな支障をきたしている状態です。
  3. 「スタイル」は「反応傾向」に近い。「障害」は「生活や関係性への支障」に近い。
  4. 全ての人に「スタイル」があります。しかし全ての人が「障害」を持っているわけではありません。

つまり、すべての人に愛着スタイルはありますが、それが強い生きづらさや関係の困難につながっている場合に、より慎重な理解や支援が必要になるということです。


この理解が大切な理由

「愛着障害と愛着スタイルの違い」を理解することは、単なる学問的な整理ではありません。

恋愛に行き詰まったとき、人はつい「私がおかしいのか」「相手がおかしいのか」と考えてしまいます。でも本来的には:

・自分は『どのスタイル』を持っているのか
・相手は『どのスタイル』を持っているのか
・そのスタイルの違いが、今の関係に『どんな影響』をもたらしているのか
・その上で、何ができるのかを考える

わたしが20年の相談経験から感じることは——「障害」という言葉で自分や相手を決めつける前に、まず「スタイルの違いによって何が起きているのか」を丁寧に整理することが、解決への最初の一歩になるのではないかということです。

恋愛で苦しくなることがあるからといって、それだけで「障害」というわけではありません。多くの場合、それは愛着スタイルの違いから生まれる自然な反応として整理できます。

その違いが分かると、「なぜこうなるんだろう」という問いが「そういうことだったのか」という理解へ、自然に変わっていきます。

このコラムを読んでくださったあなたへ

  • 自分の反応には、ちゃんと理由があります
  • 相手の行動にも、見えていない背景があるかもしれません
  • その糸口を、一緒にたぐって整理していきましょう

恋愛の悩みは、
関係の仕組みが見えると、
少し楽になる。

「相手のことがどうしても理解できない」「相手や自分の愛着スタイルをもっと知りたい」——そう感じているなら、一度、一緒に話してみませんか。20年・約7万件の恋愛相談の現場で見てきた視点から、あなたの状況を丁寧に整理します。

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